AIG全英女子オープンを制した桑木志帆が、優勝直後の会見に臨んだ。プレーオフの舞台裏から、コーチとの出会いが変えた世界、黄色いボールとネイルの哲学まで——等身大の言葉が、メジャーチャンピオンの輪郭を鮮明に描き出した。
桑木は優勝の瞬間を「本当に信じられなくて、喜びでいっぱいです」と表現した。
クラブハウスリーダーとして先にホールアウトしていた彼女は、エスター・ヘンゼライトが18番でバーディーパットを沈める場面を前に、心を決めていたという。
「すごく緊張していて手も震えてたんですけれど、自分の18番のパットを打ってから、『多分プレーオフになるだろうな』という心の準備はしていました」
プレーオフ第1ホールのティーショットは右のブッシュへ。身体が固まっていた、と本人は振り返る。出すだけの状況で救いになったのは、小田キャディーの一言だった。
「小田キャディーさんから『3打目を寄せたら相手に絶対プレッシャーかけられるから、とりあえずフェアウェイに出そう』と言ってもらえて、冷静になれたので、3打目のショットが打てたと思います」
その3打目がピン手前に寄り、ヘンゼライトのバーディーパットが外れてプレーオフは第2ホールへ。最後は相手のパーパットが外れ、桑木のウィニングパットが決まった。
今大会の優勝は、苦しかった時期があったからこそ際立つ。一昨年に国内3勝を挙げた桑木だったが、昨年は日本ツアーで1勝も挙げられなかった。
「去年は日本ツアーで1勝もあげられなくて、アメリカなんて程遠いと自信を失くしていました」
転機はコーチの交代だった。岩本砂織コーチと出会い、練習の中身が根本から変わった。
「コーチを変えて、岩本さんに見てもらってから、色んな練習方法だったり、自分の世界が変わる練習方法だったり、地道に続けてきたので、それが結果につながってきてくれて。海外で戦えるところまで持ってきてくれました、コーチが」
感覚に頼っていたゴルフがデータと融合した。
「コーチと出会って、データ化するのもより鮮明になりましたし、戦い方も、マネジメントも自分一人で全然できてなかったので、それを教えてもらって成長できたと思います」
昨年の全英女子は初日「69」を記録しながら予選落ちという悔しい経験をした。それでも桑木は「去年は強風で、風に強い球だったりとか、マネジメントをしなきゃいけないと思いました」と、その経験を糧にしていた。リンクスコースへの適応力は、一度の失敗から学んだものだった。
今大会の優勝により、今後5年間のメジャー出場資格とLPGAツアーの出場権を手にした。桑木は今年末にQスクール(LPGAツアーの出場資格試験)を受ける予定だったという。
「この大会に勝ってそれをしなくてよくなったのは、メンタル的にも落ち着きましたし、この優勝の価値は計り知れないと思います」
来季の構想については、「全然考えてなかったんですが、とりあえず来季は全部出たいと思っています。とりあえず日本ツアーで戦うつもりで、出れる大会があればアメリカでも出たいと思います」と語った。
同じ岡山出身の渋野日向子は、「小学生の時からお姉ちゃんみたいな存在で可愛がってもらっていた」という。今大会でも最終日を前に「頑張ってね」と声をかけてくれた渋野について、「いつもニコニコしていて、本当に良い存在です」と目を細めた。
高齢の両親がイギリスまで駆けつけ、優勝の瞬間を見届けた。
「両親も高齢なので、早いうちに色んな景色を見せてあげたいなと思っていたので、今回イギリスまで来てくれて、優勝を見せられて嬉しかったです」
日本選手たちからの祝福についても、「いつもテレビで見る光景だったので、実際に皆さんからお祝いされて本当に嬉しかったです」と感慨深そうに語った。
ツアーで唯一、黄色いボールを使い続けている。理由はシンプルだ。
「ゴルフを始めたくらいからカラーボールを使っていて、見やすいから使っています」
左右で色の違うネイルについて問われると、「気分ですね」と一言で笑い飛ばした。
ファッションへのこだわりについては、「日本では派手な方だと思うんですが、自分のやりたいように、やりたいことをやるのが信念です」と語る。
爪とまつ毛のスタイルで参考にしているのは、アーティストのLANAだという。
「挫けそうな時だったり、良い時も悪い時も音楽で励まされていて、自分の生活に欠かせないものです」
「お酒が好きなので、いっぱい飲みたいと思います」と笑顔を見せた桑木。この答えに会見場では拍手と歓声が起こった。
何を飲むかと問われ、「ウィスキーのソーダ割」と即答した。